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開業体験談 Vol.17 「46歳からの大きな挑戦、最後まであきらめない。」

kosaburo.jpg今回は、さぬきうどん亭小三郎オーナー、
一内隆氏の独立開業体験談を紹介させていただきます。
開業を考えている方はぜひ参考にしてください。

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PROFILE

一内隆/ Takashi Ichiuchi
さぬきうどん亭 小三郎 オーナー 
昭和32年1月24日 生まれ B型 

徳島県鳴門市生まれ。46歳で独立。 
高専卒業後、大手化学会社に入社、26年務める。世間で団塊の世代の退職について論議が始まった頃に趣味でうどんを打ち始め、それがきっかけで周りの後押しもあり独立。 
2004年10月に徳島市で開業。 
座右の銘は、「右0.5左1.5 あわてず、あせらず、くさらず、あきらめず」
好きなことは、「パソコン」

COMPANY

さぬきうどん亭 小三郎 
徳島県板野郡藍住町東中富字龍池傍示52-6
URL  http://www.udontei.com/

卒業されてからの経歴について教えてください。

阿南高等専門学校を卒業後すぐに、大塚化学薬品(株)(旧社名)に入社いたしました。学校では機械工学科を専攻していましたので、入社してからも、食品や飲料工場のラインを作ったり、メンテナンスをしたり、主に食品を作る設備まわりを担当しました。新設備の導入計画を立てて、毎日、図面を4〜5枚書いていましたね。図面屋さん、でした。会社には26年勤めましたが、そのうち設備関係の仕事をしたのは8年くらいです。あとは海外進出のプロジェクトに入ったり。一番長かったのは資材部での16年間なんですが、食品や飲料品の原料を扱う窓口でしたので、「食品」との出会いは、そのときが初めてになりますね。

独立のきっかけを教えてください。

photo1.jpgもともと私には独立志向がありました。20歳くらいのときからいつか独立したいという気持ちは持っていましたが、何をしたいというのはなかったんです。でも人に喜んでもらいたいというのはありました。学生時代に落語をやっていまして。落語をするとお客さんが笑って反応してくれるわけです。人が笑ってくれる、喜んでくれる、その魅力が忘れられないんですね。私たちの世代はバブル経済、日本経済の成長ともあいまって、昇給、昇進はするし、やりたいことをやらせてもらえるし、いい時代を過ごしたと思うんですね。節々では独立しようかという気持ちになったこともありましたが、おしなべて順風満帆でなかったかなと思います。でも43歳くらいのとき、ちょうど団塊の世代の退職について言われ始めた頃です、「私の人生はこれでいいのか?」「このまま退職するまで会社勤めを続けるのでいいのか?」「人が喜ぶ姿、笑顔を見たいという夢は?」と考えたわけです。自分の老後について考えた最初でもありましたね。 
一方でその頃、うどんを打ち始めたんです。それはうどん屋をやりたいという想いがあってのことではないんですが。週末の趣味として程度の気持ちです。最初は家族や近所の人に食べてもらっていましたが、だんだんまわりの人も飽きてきますから。友達や同僚に配るようになって。そのうち、パソコンで湯がき方や食べ方の説明書を作ったり、出汁もつけたりと、至れり尽くせり、ほんとに熱心にやっていましたね。うどんも、粉、水、塩の加減を換えてみたり、出汁についてもいろいろ試行錯誤して、それが2年間くらい。43歳〜44歳の頃です。そのうち周りから「うどん屋でもやったら?」と言われるようになっていてですね〜今でこそ商売にしてますが、その頃のはきっと自慢できるようなものではなかったはずです。そんなにおいしいものではなかったと思いますよ(笑)ごますりだったんでしょうけど、そういう周りの声が結果的に背中を押してくれることになったと思うんです。何かしたいという想いと、趣味で始めたうどんが合体した。みんなにおだててもらいながら、今に至るわけです。

趣味が転じて本業になったわけですね。開業したときの資金調達はどのようにされましたか?

photo2.jpg45歳〜46歳で退職を決意して、46歳の7月末に会社を辞めました。そうしたときに、人を通じて「ある休店中のうどん屋さんが借り手を探している」という話を聞いたんです。競争相手もいたんですけどね。これも何かの縁かなと思って、是非にということで借りることにしたわけです。 
26年間会社勤めをして、退職金がありましたので恵まれていたとは思うんですけど、家族のためにも使わなきゃいけないお金ですから、商売に全て投入するのは難しいですよね。失敗したらというのがありますからね。退職金のうち、商売用として1千万円を使いました。借金はしていません。しかも物件も居抜きで借りられましたので、店舗の建設費や設備投資は必要ないわけです。初期投資は最小限で済みましたね。敷金等で500万弱くらい、残りの500万円が運転資金になりました。

開業当時の売り上げはどうでしたか?

最初の2ヶ月、3ヶ月はこんなに順調でいいのかというくらい好調で、非常にいいスタートを切りました。でもその後がグっと。半分近くにまでなりました。開店のときは友人、知人が贈ってくれた花輪がいっぱいで、店もだいぶ目立っていましたから。もう店が見えないくらいでしたよ。ほんとに涙が出るくらい、有り難いと思いました。でもそれを撤去した途端、地獄が・・・。お客さんががぱたっと減りました。それが1年、2年くらいは続きましたよ。今も厳しいのに変わりはないんですが、徐々にはよくなってきているかなという感じです。そう簡単には上向きませんね。ただずっとあの好調なのが続いていれば、努力を怠って、もしかしたらもう店はなくなっていたかもしれません。サラリーマン時代はそう苦労することなしにきていますので、この苦境はよい経験だと。誰かが言っていましたが「選ばれた人だからこそ苦労を与えられたんだ」と思って頑張っています。

辞めたいと思ったことはありますか?

そういう思いがかすめたこともあります。「だめだったら、家族ともどもどうなるんだろう」そう思ったことはありましたけど。慌てず、焦らず、腐らず、諦めず。最後まで諦めないということが重要でないかと思います。

どのように乗り切ったのでしょうか?

一番は誠実さですね。商売をやっていくのなら、お客様を裏切らないよう、誠実であることがとても大事だと思います。あと、熱意ですね。何をするかなんですけど。おいしいものを、お客様が喜んでくれるようなものを作ろうという気持ちを持って一生懸命やっていくこと、じゃないかな。そうするとそれは店の雰囲気にも出てくるし、結果にも現れてくるのでないかと思います。そうであったらいいなと思いますね。

よかったなと思うこと、感動したことはありますか?

photo3.jpgお昼時には人がたえない「お客様に喜んで欲しい」という気持ちでスタートしていますから「おいしかったよ〜!」と言ってもらえるとほんとに嬉しいですね。「香川の本場も回ってきたけど、最後に徳島で食べたうどんが一番おいしかった」「うちの子は普段はぜんぜん食べないのに、ここではたくさん食べるんですよ」なんて聞くと、お世辞でも嬉しいですよね。お客様の何気ないちょっとした言葉に喜びを感じます。頑張って続けていこうと思いますね。

成功したポイントは何でしょう?

成功はまだしておりませんのでね。一生懸命、諦めずに、これからもやっていきたいとは思っていますけど。誠実さと熱意、やはりこのことを忘れないようにと思います。

これから独立する人へ、一言お願いします。

ほんとうに何かをやりたいと思う自分があるなら、何があっても諦めないということを念頭において頑張って欲しいですね。やりきれる自信がないのであれば始めるべきではないと思います。これから独立する人たちにも、やはり誠実さと熱意を持ってやっていっていただきたいと思います。

特に定年退職してから独立したいと思っている方へ、何かありますか?

開業するときに本を読み漁ったんですけど、覚えているのが、独立して成功するのは30パーセントだということです。つまり70パーセントは失敗するという数字が出ているわけですよ。さらにこれが50歳を過ぎてからの独立となると、30パーセントの成功率が10パーセントになる。50歳を過ぎると、体力的なものなども含めて、成功するのはなかなか難しくなるという結果が出ているんですね。でも熱意と技術を持つ人がたくさんいますから。団塊の世代の方たちの定年退職後のチャレンジに、私は期待しています。経験など、若い人に勝るところを生かしてやっていくことによって、今までは10パーセントだったかもしれないけど、その可能性は広がっていくと思っています。