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開業体験談 Vol.22 「地域に根ざした珈琲屋に!期待に応え続けるプロ意識」

satou.jpg今回は、自家焙煎珈琲カフェ・コンディトライ カフェ・ケストナー、
オーナー佐藤文昭氏の独立開業体験談を紹介させていただきます。
開業を考えている方はぜひ参考にしてください。

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PROFILE

佐藤文昭 / Fumiaki Satou 
自家焙煎珈琲カフェ・コンディトライ
カフェ・ケストナー オーナー
昭和32年4月21日 生まれ B型

徳島県徳島市生まれ。42歳で独立。 
徳島大学を休学中に調理師免許を取得、大学を退学する。その後は調理の道に進み、その間で珈琲と関わることも多く、美味しい珈琲を求めて独立を志す。 
2000年11月に徳島市で開業。
座右の銘は、「夢はかなう」

COMPANY

自家焙煎珈琲カフェ・コンディトライ カフェ・ケストナー 
徳島県徳島市川内町大松255-3
TEL.:088-665-7277
営業時間:AM10:00〜21:00
定休日:水曜

職歴、経歴を教えてください。

徳島大学を休学中に調理師学校に通って、調理師免許を取得しました。またその間に、国家資格の西洋調理師、一級技能士も取得できました。それでこの道でやっていこうと決心して、大学を辞めました。それから県内のレストラン、ビストロなどで7年くらい修行しました。その間、珈琲にかかわることも多かったですし、ケーキの店を立ち上げたりもしました。その後、ホテルに入って10年間。最終的には料理長としてやっていました。ホテルを辞めてからは、大きな企業の食堂、集団調理で4年間働きました。正しい、良い珈琲を提供して、皆様に飲んでもらうことで世界平和になると信じ、実践するために珈琲とケーキの店を開店しました。

なぜホテルから集団調理の場へ?

photo1.jpg外国の郊外を思わせる外観独立の準備をするためです。ホテルにいたのでは休みにくいし、自分の時間がなかなか作れないですからね。その点、企業の食堂の仕事はパーツですから、休んでも代わりが利くんですね。ホテルではそうはいかないですから、辞めて、独立準備の期間は集団調理に身を置くことにしたわけです。一日何千食も作るような集団調理で必要とされる調理技術は、ホテルやレストランのそれとは全く違いますからね。
そういう意味でいい経験にもなりましたよ。独立するからといって働くことを辞めるべきではありません。それまでどんなに大きな、有名なところに勤めていたとしても、退職してしまったら失業者ですからね。誰も失業者にはお金を貸してくれませんよ。

独立しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

世の中にいい珈琲がなかったから、かな。美味しい珈琲で世界平和を!そのくらいのことを思っていました。独立することをまだ考えていない頃、20年くらい前からそういう気持ちはありましたね。あともう一つ、家族のことを考えたというのもあります。僕が結婚したのは30歳だったんですけど、それからの子供ですので、このまま会社勤めをしていたんでは、子供たちが独り立ちする前に定年退職しなければならなくなる、それじゃあ困ると思ったんですね。家族ができて、10年、20年先は?と考えたときに方向が変わり始めたんですね。そこに来て、どうも世の中うまくいってないなー、と。世の中のため人のために自分のできることをやらなきゃ!という想いと重なったわけですね。

資金調達はどのようにされましたか?

どこもお金を貸してくれませんでしたね。今でこそカフェブームですけど、バブル崩壊の後でしたから、「カフェをする」なんて、もう全くだめでしたね。でもそんなとき、親の金を使ったらだめなんですよ。商売を続ける中で、もし本当に困窮することがあったとしたら、そこで頼れるのは親しかいないんです。そんな事態になる可能性を考えなければならないとすると、逆に極力、親の金は当てにしないことです。結局、JAバンクさんを拝み倒して貸してもらいました。親にも保証人にはなってもらいました。私のお店はメーカーがついていないので、そのあたりもあったんでしょうね。やっとのことでした。JAバンクさんは、飲食業に融資したのは初めてだったと思いますよ。だからこそ貸してもらえたのかもしれませんけどね。

開業時、どのくらい必要でしたか?

JAバンクさんから金利込みで3000万円借りました。あと自己資金が600万円ほどでしたから、合計3600万円くらいですね。

どのような内訳ですか?

photo2.jpg土地は借りていますが、店舗は建てましたので、それに2000万円くらいですね。近頃、この界隈で大手の出店が多いのは、浄化設備にお金がかかることも考えるべき。僕がお店を出した2000年頃に厳しくなったんですけどね。沖浜あたりのお店に行くと、トイレの便器の排水入口のところに蓋がついていて、排水時にぽんと開くようなのを見ることがあると思います。あれはくみ取り式ですので、定期的にバキュームカーに回収をお願いすることになりますね。水洗にすると浄化設備にお金が掛かります。極端に言うと、上に1000万円掛かると、下にも1000万円掛かるくらい。バキューム式にすればさほどお金は掛からないので、店舗を建てるのであれば、その地域の浄化設備に関する規制や下水道事情などについても考えた方がいいですね。店舗を借りるのか建てるのかでも大きく違ってきますよね。
あとあそこにある表彰状はケーキ部門でいただいたものなんですけど、うちは製菓・製パンの設備もありますので、それに500万円くらい掛けています。残り1000万円は金利です。

開業当時の売上げはどうでしたか?

非常に悪かったですね。まず、珈琲を分かっていただける、楽しんでいただけるお客様を増やしていこう、お客様とともに成長していこうという気持ちでいましたから、そのあたりが商売の仕方としてちょっと違うところですね。通常のように、オープンの1年くらいで回収しようとか、そういうふうには考えていませんでした。今になってとんとんかなあ。元々、3、4年は赤字覚悟でしたから。そのつもりで借入金もすべて準備していますからね。大手さんだと3年〜5年くらいで回収を図ろうとしますね。土日祝祭日に100万、200万を売上げて、設備投資を何年で回収してというシステムですね。これは個人事業主にはできないことですけれども、何年で軌道に乗せられて、何年でペイできるのか、これは当然考えておかないと。そうでないと3年もしたらだめになりますよ。

やめたいなと思ったことはありますか?たいへんな時期をどのようにして乗り切ってこられたんでしょうか。

やめたいとは全然思いませんでしたね。お客様に助けていただいています。
オープン当初は暇でしたけどね。僕は忙しいより暇な方が好きなんです(笑)お客様ときちんと関わることができますから。ロードサイドでやっている大手さんは、土日、連休、正月など休日にアルバイトをたくさん雇って、そのときに一度に集客して、何百万円もの売上げを出すわけですけど、うちはそうはいかないですから。何回も、何度でも来ていただくお店でないとだめなんですよ。普通に購買層を18歳〜35歳くらいのお客様とすると、その層のお客様に3〜4回ずつ来ていただくと、だいたい徳島の人口と同じ25万人くらいにはなりますからね。来ていただいたお客様とは、1日一組関わる、お話をすることを心掛けています。営業日が年間約200日ありますから、何年か続けていくと総当たりでも25万人くらいにはなるでしょう。お客様が忙しいときには「出てくるな」なんて言われることもあるんですけどね。そういう1日1日のお客様との出会いを大事にして、今までなんとかやってきています。お客様層は赤ん坊からお年寄りまで珈琲を楽しまられます。

お客様との関わりを大切に考えていらっしゃるんですね。

photo3.jpgそうですね。それが僕の信条です。それと同時に「珈琲を楽しみたい、このお店の空間を楽しみたい」と思って来てくださるお客様の期待を裏切らないよう、そういう場を提供していき続ける、お店の雰囲気を守っていく、このことがオーナーとしての責任であるとも思います。そのためには、従業員は元よりお客様にも良識を持っていていただくことが必要ですね。ある程度お店のルールに従っていただくというか、ただこれは特別なことではなくマナーの範囲です。僕は子供連れで来ていただいて構わないと思いますし、たとえ大人しく居られなくても仕方ないと思いますよ。老人は通路でもご自分のペースでゆっくり歩かれますしね。でも、老人がゆっくり歩いている側を、無神経にばさばさと通り抜けるようなのはNGですよね。

では嬉しかったこと、印象に残っていることなどありますか?

お客様に喜んでいただけると、やはり嬉しいですね。おじいちゃんの生前に一緒に来たという家族の方が来られたり、息子さんが帰ってきたからと来られたり、家族の思い出がうちのお店にあるんですね。地域に根ざした珈琲屋になることを目指す僕としては、思う感じになってきているなあと。

成功したポイントはなんでしょうか?

正しいことは正しい、悪いことは悪いと言える、取り繕ったり嘘をついたりしないこと、ですね。それはお客様にも従業員にもです。嘘があると、お客様もそれを微妙に感じますからね。珈琲にも出ますよ。何にしても誠実であることが大切だと思います。

これから独立する方へ一言お願いします。

「プロフェッショナルであれ」ということ。商品知識を持っていることは前提ですね。メーカに勧められるがままに、それが良いものか悪いものかを自分の目で確かめられず、一緒に壊れてしまうような商売をしても仕方ないですよね。知識に裏打ちされたこだわり、プロ意識というのは、店をやっていく上でとても大事なことです。正しい良い珈琲を提供しなければだめです。
今回の開業に掛かった3000万円というお金は僕には大金でしたけど、でも逆に言うと、そのくらいあれば十分独立できるわけですから、飲食業も増えますよ。そんな中で、存続していかなければならない。体力的なものも必要ですし、ここでもう一つプロ級のものがあるとなおいいですね。それは何でもいいんです、サンドイッチ、お米についてでもいいし、絵画、水泳、車の修理、何でも。何か一つ精通しているものがあって、人に自信を持って話ができる、これは強みになるでしょう。